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REPORT

生活困窮世帯

生活苦から正常な判断ができず、借金をしてしまった男性

宝くじしかなかった。あの時の状況を変えるには

この言葉はKさんと初めて会った時に私が聞いた言葉です。

債権者や裁判所からの督促状や差押予告通知書でいっぱいになったゴミ袋を抱えて、Kさんは生活費や借金の相談にこられました。

Kさんは、大学卒業後、官公庁に就職しました。結婚をし、妻と、長女、次女の4人で生活を行っていたそうです。しかし、10年前に離婚、5年前から仕事が出来ない状態となり、現在は80代の認知症の母親と2人暮らしです。預貯金がないため、母親の年金で生活をしています。

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鬱になってから人生の歯車が狂った

Kさんの生活は30代中盤までは順調でした。異動に伴い業務内容が変更されたことをきっかけに生活が一変します。異動先の部署では、経理業務が主となります。苦手な業務でミスが多くなり、上司からの叱責が多くなりました。また残業も多い部署で、日付が変わってから職場を出ることも少なくありませんでした。

会社に行こうとすると、冷や汗が出て、気分が悪くなります。職場に近づくにつれ、吐き気を感じ、動悸が激しくなっていきます。体調や胃腸の不調かと思いましたが、症状は改善されず、仕事中も帰宅後も休日も同じ症状に悩まされることとなりました。

「当時は夜遅くまで仕事することが、当たり前でした。どんなに調子が悪くても、仕事を辞めることは考えられませんでした。しかし、すこしずつ精神的に追い詰められていたのかもしれません。」

 

家族が異変に気付き精神科を受診しますが、症状が改善することがなく、家にこもることが多くなり、気分は常に落ち込み、自分では食事もとれず、身だしなみも整えられず、外出もままならない状態となりました。その後、何度か復職をしますが、根本的な改善には至らず離職してしまいます。

自宅療養を初めて1年ほど過ぎると、妻と言い争いや喧嘩をすることが多くなり、子どもたちにも声を荒げてしまうなど、悲しい思いをさせてしまいました。結果的に、妻からは離婚を突き付けられます「妻は献身的に支えてくれました。鬱の症状も重たく当時のことはほとんど覚えていないのですが、稼ぎがない夫はいらなかったということですね」とKさんは当時を振り返ります。それ以降、妻とも子ども達とも会うことはありませんでした。「父親がこんな状態だから合わせる顔がありません。連絡先もわからないから会う手段もないけどね。子ども達が幸せになってくれればいいのだけど」と寂しく語る姿を見て胸を締め付けられるような感覚がありました。

自分には何もない。いまの状況を変えるには宝くじしかない

鬱の影響もあり正常な判断ができなかったと当時を振り返ります。家族も仲間もお金も失い、頼る物がない中、最後の希望となったものは宝くじでした。仕事もできない。借金も増えていく。生活をしていかなきゃいけない。親の年金で生きていく心苦しさ。全てを解決するには宝くじをあてることだと考え、カードローンの借入限度額・クレジットカードのショッピング枠を目一杯つかって購入しました。しかし、現実は何も変わりません。人生をかえてくれるほどのお金が当たることはありませんでした。

多重債務をした事実が重くのしかかり、毎日のように鳴る電話、債権者や裁判所からの督促状や債権差押命令におびえる日々が続きます。電話が鳴るたびに、督促状を見るたびに心が重たく、心が搾り取られるような感覚を覚えました。生きていくことは心をすり減らしていくこと。自身の存在意義を見出すことができず、自死も考えるなか、私たちのところへ相談にこられました。

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私たちで対応したこと

うつを抱えている人の多くは、症状を精神薬でコントロールをしていますが、Kさんは半年以上通院しておらず、毎日服用しなくてはならない薬を3日に1回飲むことで生活を維持していました。どのような支援よりもまず医療を提供するのが先決だと考えて、翌日には医療を無償で受けられるよう手配をしました。また、一時的に医療が受けられたとしてもKさんの場合は、中長期的に医療が必要なため、安定して医療が受けられるような収入を得るために、日雇いアルバイトを紹介し就職の支援も行いました。しかし、精神的な面から勤怠が安定しないこともあるため、今後についても継続的に見守りをおこなっていきます。

小林 友

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