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REPORT

高齢者の孤独・孤立

認知症のひとり暮らし高齢者の不安 ~ 家族だけでは支えられない現状 ~

「お金を払わないと…」内容を理解できず結んでしまった契約

「いつも窓口に来て、色々相談される方がいる。今日は屋根の修理代を引き出したいと言っていたが、詐欺にあっていないか心配で連絡した」銀行から私たちに相談が入りました。80代女性のAさん(仮名)は頻繁に銀行を訪れ、「〇〇の支払いがあるからお金をおろしたい」「通帳が見当たらない。ここで預かっているのではないか」と、多いときは毎日銀行に来て様々な事を訴えているとの事でした。Aさんは数年前に夫を亡くし、ひとりで暮らしていますが、以前から認知症が疑われたため、私たちは地域の方と連携して食事会のお誘いの他、毎月の見守りを行っていました。私たちは早速Aさん宅を訪れ詳しいお話を聞きました。すると、業者が来て屋根が壊れているすぐ修理した方がいい、と言われ、その場で修理をしてもらい、修理代を払わないといけないこと、他の場所も壊れているから、追加でお金がかかると言われている、と話してくれました。Aさんは「修理はもうやってもらったので支払う」と何度も繰り返し訴えますが、工事内容の確認を行うため、業者に連絡をする許可をもらい、その場で業者に連絡を取りました。すると、工事はまだ行っていないこと、Aさんが修理代を一括で払うのが大変、と言うので、3分割の支払いで契約を交わし、頭金を支払う内容になっていることが分かりました。業者から契約書が家にあると聞き、Aさんと一緒に探すと契約書が見つかりました。しかし、契約内容や金額をAさんは理解できておらず、説明しても「修理代を払わないといけない」を繰り返すばかりでした。私はAさんがお一人で判断して修理の契約をする事は難しい、と考え、ご家族に相談してから正式な契約を結びたいと業者に伝え、工事と頭金の支払いを待ってもらう事にしました。一連のやり取りをしている間、Aさんは私のとなりで「修理代を払わないと・・・でも追加の工事代は払えない・・・どうしよう」とうわ言のように繰り返します。私が「息子さんに相談をしてから決めましょうね。お金はまだ支払わなくて大丈夫ですよ」と何度も伝えましたが、私の言葉はAさんには届かず、不安な表情がやわらぐことはありませんでした。

なんとかしてあげたいけど…家族の葛藤

 Aさんには遠方に住む息子がいますが人工透析をしながら仕事もしており、実家への往来が体力的にも時間的にも難しい状況でした。息子に連絡をとると、「母親の事はいつも気にかかっていますが、自分の身体の状態では支えてあげることができないんです。どうしたらいいか、いつも悩んでいます」息子はAさんを支えられない事への葛藤を抱えていました。取り急ぎ、修理は息子と相談し、契約を破棄することとなり、私は再度業者に連絡し、Aさん宅に来てもらいました。そこで、Aさんの判断能力低下の状況を説明し、契約をキャンセルしました。

 Aさんの様に、親族がいても家族の体調・家庭環境や親族の高齢化などで支援を行う事が難しい方や、身寄りがいない方が多くいらっしゃいます。そのため、理解力が低下し、日常生活に支障をきたしだしても気づかれないまま症状が悪化し、多くの不安を抱えながら生活せざるを得なくなっています。私たちはその様な状態になる前に少しでも早く変化を把握できるよう、地域住民とのつながりづくりを進めています。見守りのためボランティアが訪問し福祉新聞を届ける取り組みや、会食会の出欠確認による見守り、住民の方が集う場の増設等をおこない、高齢者が地域で孤立しないことを目的としています。これらの取り組みにより認知症状の低下や体調の悪化をいち早く把握し、私たちにつながる事例も多くみられるようになりました。これからも高齢者が地域で孤立し、不安を抱きながら生活することがないように、どこかで、誰かと必ずつながれる仕組みづくりを進めていきます。

 

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