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REPORT

子どもの貧困

ヤングケアラーの中学生がボランティアに。

 子ども支援を担当している小沼です。今回は私が長年関わってきた子どもの話を紹介させていただきます。

―ある日の子ども食堂にて―

 「親子丼にお肉が入っている。うちではお肉は買えないからちゃんとした親子丼をあまり食べたことがない」私たちの実施している子ども食堂で当時中学生の美咲さん(仮名)が言った言葉です。

 

―中学生の美咲さんを取り巻く苦境―

 美咲さんは精神疾患を患う母と、小学生の弟と3人暮らしです。母は病気の影響で体が思うように動かず、食事の用意や洗濯などの家事は美咲さんが担っています。朝起きて食パンを焼いて弟に食べさせ、送り出してから自身も中学校に行きます。本当は入りたい部活があったけれど、家のことを心配して親に入りたいと言うことができず、活動日が比較的少なく、お金があまりかからない部活を選んで入部しました。

 また、美咲さんは、黒板の文字がぼやけるくらいに目が悪く、席替えの時はいつも一番前にしてもらっています。医師からメガネの作成を勧められていますが、作れません。改めての眼科の受診が必要で、お母さんの体調が良くなく一緒に眼科やメガネ屋さんに行ってくれる大人もいない状況で作りに行くことができません。学校が終わってから帰宅するとお母さんから預かったわずかなお金で3人分の食事を用意します。スーパーを3軒まわって、一番安いところで買い物をします。美咲さんの生活ではこれが当たり前になっていました。

家族が心配で自分の好きな部活動に打ち込むことができない、放課後に友達と遊びに行く時間がない、目標の高校に合格するために勉強する時間もない、自分のことを考える余裕は全くありません。

 

―私の思いと美咲さんとの関り―

 まずは子ども食堂と朝ご飯パックの提供などによる食事のサポート、美咲さん自身の時間をつくってほしいという思いから学習教室にも誘いました。メガネは一緒に眼科に行き再検査をして、作成することができました。

 きょうだいの世話をすること、家事を手伝うことは特別なことではないかもしれませんが、中学生の子どもが自分のやりたいことを諦めてやるべきことなのかと悩みながら私も美咲さんと関わっていました。必要なものは揃って当たり前、学校から帰れば夕食が用意されている、自分のやりたいことにのめり込む、そういった環境を整えないといけないと強く思いました。

 

―ボランティア活動が転機に―

 休みの日も家族と過ごし、自分のことを考える余裕がなかった美咲さんに、ぜひ自分のことに時間を使ってほしい思いで、ボランティア活動に参加してみない?と声を掛けると是非参加してみたいとのこと。月に2回、地域の高齢者向けのカフェでボランティア活動を開始しました。美咲さんは初めこそ緊張している様子でしたが、明るい表情が見られて、私自身もホッとしました。地域の高齢者からもたくさん話しかけられ、家族以外の人から必要とされる経験、新しい知識、新しい人との関りが生まれ、美咲さんが日を追うごとにいきいきとしていきました。徐々に自分のことを考える余裕も生まれたようで「高校では○○部に入りたい」という目標を改めて持ち、無事に受験を終え、高校生になって自分のやりたいことに挑戦しています。

 今は私たちが運営する学習教室のボランティアとしても参加しており、忙しい高校生活の合間を縫って後輩たちに勉強を教えに来てくれています。美咲さんの様子を間近で見ている後輩たちが、また自分の目標をもって頑張っていく、学習教室ではそんな好循環が生まれています。

 

子ども支援担当 小沼 和矢

 

※個人情報保護のため、一部情報を加工してあります

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