REPORT
活動レポート
「今ではこの町で暮らしたいと思っているんですよね」(後編)
なぜ、Aさんはここまで追い詰められてしまったのでしょうか。これはAさんだけに起きた、特別な出来事なのでしょうか。前編で見てきたAさんの歩みを振り返ると、いじめ、不安定な働き方、家族との別れなど、いくつもの困難が重なっていました。しかし、それらに共通しているのは、困ったときに一人で抱え込まざるを得なかった状態、すなわち社会的孤立が、時間をかけて深まっていったという点です。
社会的孤立とは、単に一人で暮らしていることを指すものではありません。困ったときに相談できる相手がいない、日常的に会話をする人が少ない、何か異変が起きても気づいてもらえない。そうした状態が続いていることを意味します。国が実施した「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」では、孤独感を感じたことがある人が「しばしば・常にある」「時々ある」「たまにある」と回答した人の合計が 39.3%と示されています※1。
※1内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和5年・令和6年)」内閣府が2024年実施の調査で、満16歳以上の全国の人を対象に「孤独感があるか」を尋ねたところ、「しばしば・常にある」「時々ある」「たまにある」と回答した人の合計が 39.3% であったと報告されており、この数は孤独感を感じると回答した人の割合の合計値です。出典(https://www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/torikumi/zenkokuchousa/r6/pdf/tyosakekka_gaiyo.pdf)

Aさんの場合、学生時代のいじめ経験が、人との関係を築くことへの不安につながっていました。人に頼ることに抵抗を感じ、「自分が我慢すればいい」「迷惑をかけてはいけない」と考えながら、つらさを一人で抱え込んできました。こうした姿勢は、当時の環境の中で生き抜くために身につけざるを得なかった工夫でもあります。しかし、その結果、大人になってからも悩みを打ち明けることができず、孤立を深めていくことになりました。
また、不安定な働き方や経済的な不安も、孤立を強める要因となります。国の調査では、生活が苦しいと感じている人や、日常的な交流が少ない人の中で、孤独感を感じる割合が相対的に高い傾向が示されています※1。生活に余裕がなくなると、人と会うことや、誰かに助けを求めること自体が負担に感じられるようになります。Aさんも、仕事や生活の不安を誰にも相談できないまま、長い時間を過ごしていました。孤立した状態が続くと、心や体にも影響が表れます。体調の変化に気づきにくくなり、物事を一人で抱え込みやすくなります。気持ちが落ち込みやすくなり、考え方が悲観的になっていくことで、判断する力が弱まっていくこともあります。本来であれば、誰かに話すことで整理できたはずの問題も、一人で考え続けることで、より大きく、出口の見えないものに感じられてしまいます。これは性格の問題ではなく、孤立した環境そのものが人に影響を与えていると考えられます。
さらに、厚生労働省が公表している自殺対策白書では、自殺の原因・動機として、経済・生活問題が毎年一定割合を占めていることが示されています※2。国は、自殺に至る背景として、複数の要因が重なり合うケースが多いことを指摘しており、孤立や生活不安もその一因となり得る状況がうかがえます。Aさんが直面した困難は、一つの原因だけで生じたものではありません。過去の経験、生活の不安、そして社会的孤立が重なり合い、時間をかけて積み重なった結果、「もうどうにもならない」と感じる状態に至ったのです。社会的孤立は、個人の弱さや努力不足の問題ではなく、誰にでも起こりうる社会課題なのです。
※2厚生労働省「自殺対策白書(最新年版)」令和5年(2023年)の自殺者における原因・動機の計上件数では、「経済・生活問題」は 5,181件 となっており、前年の 4,697件 から増加していると報告されています。出典(https://www.mhlw.go.jp/content/001321212.pdf)
Aさんは、さまざまな事情が重なり、生活面だけでなく、心と体の両方に大きな負担を抱えていました。そのため、一人で抱え込まなくてもいいように、一つひとつできることから一緒に取り組むことにしました。ほとんどの支援を同時進行で始めましたが、まずは債務についての整理が必要であったため、弁護士事務所への相談に同行しました。また、うつ病を抱えており、病院を受診すること自体が大きな負担となっていたため、病院への受診にも同行しました。あわせて、体調や状況に応じた就労に関する支援や、傷病手当の受給についての手続きを進め、収入面の不安を少しずつ和らげていきました。生活状況を確認する面談については、月に1回、週に1回などの決まりはなく、必要があれば何度でもお会いすることができます。ただ、Aさんはメンタルが不安定な部分もあったため、誰かに会うこと自体が勇気のいることでもありました。また、メンタルに課題を抱えている場合、一見すると状況が良くなっているように見えても、何が引き金となって急変するか分からないため、慎重に対応しました。
さらに、人とのつながりが途切れがちで、孤立している状況でもあったため、無理をせず参加できる居場所事業「アッとホーム」につなぎました。自分のペースで参加する中で、Aさんは少しずつ、ゆっくりと人と関わる時間を取り戻していきました。

病院の駐車場につき、Aさんは「生きることができるならどこでもいいと考えていたんですよ。もう家族の誰も生きていないし。どこで住もうが私は変わらないから。でも、今ではこの町で暮らしたいと思っているんですよね。」と言いました。
何かきっかけがあったんですか?と聞くと
「この町には寄りかかってもいいと思える人がいるし
私が居てもいいと思えた居場所があるから」
毎日ご飯を食べられる、お風呂に入ることができる、病院に行って薬をもらえる、
出来て当たり前であってほしいことを、時間をかけて取り戻していきました。
Aさんは今もこの町で、自分のペースで、懸命に生きています。
生活相談担当 古川 拓海
